Hatibei's music blog

以前は写真ブログでしたが、最近はもっぱら音楽の話題です。

ショート ショート

あれはどれぐらい前のことだったか友達の妹の美咲さんと話した時、
「私の右手の長さ、左手より長くない?」
と訊かれたことがあった。私は彼女が何をいいたいのかよく意味が分からず、
「えっ?」
とききかえした。
「右手の方が左手より長くなってきているような気がするの」
彼女は前へ倣えをするように腕を上げてみせた。
「同じ長さにしか見えないけどなぁ」
「そう?」
「うん」
「私ね、手だけでなく私の体の右側が大きくなってきているような気がしてしょうがないの」
そういいながら彼女は右手と左手を胸の前で拝むように合わせて、
「ほら、やっぱり掌も右側がこんなに大きいわ」
「厳密には分からないけど僕には同じ大きさにしか見えないけれど・・・」
私の声が聞こえているのかいないのか彼女はこう話し続けた。
「それにね、世の中のモノは逆にみな左側がどんどん大きくなるの。このままだと私、おかしくなってしまいそう・・・」
「う~ん」
私は返事に困って美咲さんを見た。彼女はひどく不安そうな表情をしていた。
「あまり気にすることないんじゃないかな」
「みんなそういうのだけど・・・、私、変なのかしら?」
「変だとは思わないけれど・・・」

美咲さんが精神病院へ入院したのはそれから約1年後のことだが、今では彼女は自分の母親のことも判らなくなってしまっているのだという。病院でクスリを大量に飲まされているせいだと母親はいっていたが。何年か前のあの美咲さんとの会話は彼女が発狂する前兆だったのだろうか? もし、そうだとすると・・・。私も最近、右側の手がだんだん大きくなっている気がしてしょうがない。それに世の中もの(私の体の右半分以外)すべてが左側だけ大きくなりつつある。他にもこのごろは黄色の大きな布が突然視界に表れることがあり、それが現れた後には決まってイヤなことが起こるのだ。近頃、私は視界に黄色いものが入るのがおそろしくなり、黄色いものはできるだけ身のまわりにおかず、外出する時も注意して黄色のものを避けるようになった。雨の日、子供が黄色い傘をさして私の方へ歩いて来た時など私は恐ろしさのあまり、踵を返し逃げるようにもと来た道を足早に戻ったものだ。子供の傘の黄色の何がそんなに恐ろしいのか説明してみてもおそらく誰からも理解されないだろう。客観的にみて子供のさす傘の黄色が恐ろしいと怯える私がおかしいのだということは分かってはいる。これはもしかすると私も・・・「発狂」という黄色い文字が脳裏をかすめそれが私を憂鬱にさせる。私は必死にその黄色い文字を振り払おうと試みてはいるのだが。


(づづく)

といってもいつ続きを書くか分かりません。書かないかもしれません。

(これはあくまでも作り話です)