こんな夢を見た。
私は浅草雷門の前で陽子を待っている。最近の雷門前とは違ってまだ夕暮れ時だというのに人はまばらにしかいない。雷門大提灯の下に立っていると仲見世の方から歩いて来たのか陽子が後ろから私の肩を叩いた。振り返ると陽子は満面の笑みを浮かべている。
「浅草寺にお参りしてきたの」
と陽子がいうので
「それじゃ、また浅草寺に戻ってもしょうがないから隅田川の方へ少し歩こうか」
「ええ」
と陽子は頷いた。
私と陽子は肩を並べ互いに黙ったまま並木通りを隅田川の方へと歩いた。駒形橋の手前まで来たところで
「橋、渡ってみる?」
と陽子がいった。
「いや、渡らずに駒形の泥鰌屋の方へ歩いてみよう」
「そういえば、昔、一緒に行ったわね、泥鰌屋さん」
「君は泥鰌を食べたことがないといっていたっけ」
「あなた、泥鰌は安価で昔江戸では庶民の蛋白源になっていたんだといってから泥鰌豆腐を注文して、これ別名を地獄鍋というんだぜと教えてくれたわ。水から泥鰌を鍋に入れ弱火で煮て、熱くなってきたところで冷たい豆腐を入れる、すると熱さにたまりかねた泥鰌が豆腐の中へ逃げ込むのだけれどそのまま豆腐と一緒に煮えてしまう、だから地獄鍋だって」
「そんなこともあったね。君は気味悪がって食べるのを躊躇していたっけ」
「そうそう、あなた、気味悪がっている私を見て大笑いしていたわ」
「また食べてゆくかい?」
陽子を首を振って、厩橋の方へ歩き続けた。厩橋の近くへ来たあたりで
「最近はどう?」
と陽子が訊くので
「うん、まあまあかな、トシだから病気をしたりしたけれど、今はそれなりに元気にしているよ」
「そう、それならよかった」
「君はどうなの?」
と、私が陽子に訊き返すと
「私には何もないわ。だってもう死んじゃったんですもの」
そういわれるまで夢の中の私は陽子がもう何十年も前に死んでしまっていたことに気付いていなかった。
「そうだ、そうだった」
私が驚いていると、陽子は厩橋の方を見て、
「あの橋を渡って私と一緒にあちらの世界にいってみる?」
と、私を見つめた。私はそろそろあちらの世界へ行ってみてもいいかなとも思ったが
「こちらの世界にもまだ未練があるから渡るのはもう少し先にするよ」
と応えた。すると陽子はそうとほほ笑んだかと思うとすっと消えてしまった。そこで私は夢から覚めた。またそのうち夢に現れてくれ、今度は一緒にあの橋を渡ってみよう、陽子。
https://www.youtube.com/watch?v=p7RJGahAwi8&list=RDp7RJGahAwi8&start_radio=1 - #9 dream - John Lennon