Hatibei's music blog

以前は写真ブログでしたが、最近はもっぱら音楽の話題です。

論理学

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あれは何年前のことだっただろうか、夕方の散歩中に要子が私に言ったことがあった。
「同じ日の同じ時間にね、同じ母親から生まれたのだけれど、その二人は双子じゃないんだって、それって、どういうことだか解る?」
「ん? どういうことかな?」
と、私が歩くのをやめて考えていると、
「そのふたりはね、三つ子のうちの二人ということ」
やや得意な表情(かお)をして要子がいった。
「なるほど、三つ子のうちの二人か・・・、四つ子のうちの二人ということでもいい訳だ?」
「そう、そう」
と、いってから要子はこう続けた。
「昔ね、論理学をやったことがあったの」
「今の話しがその論理学?」
私が笑うと、
「そうじゃないけれど、論理学の先生が授業中に話したなぞなぞなの」
「ふーん、確かになぞなぞにしては、少しは論理的かもしれないな」
「西賀さんもやった、論理学?」
「さあ、どうだったかな? 論理ってのは、つまり数字や記号を含めた言葉で組み上げてゆくものだろう? 僕は言葉ってものは不完全なものだと思っていてさ、だからそんな言葉で組み立てる論理学なんてものにはあまり関心がなかったような気がするな」
「言葉ってそんなに不完全かしら?」
「だってさ、言葉で表現できないものって沢山ありすぎるじゃないか。
たとえばさ、あの雲の色だって、言葉や数字や記号じゃ正確に表現できないだろう?」
私が空を見上げ、夕暮れにやや染まった雲を指さすと、要子も空を見上げて、
「そうかもしれないわね・・・。本当はね、その論理学の先生がね、ちょっとカッコよかったんだ」
と、要子がつぶやいた。
「論理的に論理学を学んだんじゃなくて、先生がカッコよかったから論理学を学んだ訳だ?」
私が笑うと、要子も笑った。
茜色に少し染まった雲がゆっくり、とてもゆっくりと風に流れていた。

今朝、あの夕方に見た時のような雲が見えたよ、要子。
僕には死んでしまった君が空へ昇って雲になって染まっているように思えてさ、
僕もはやく雲になりたい気がしたよ。全然、論理的じゃないんだけどね。