説明文に南朝、北朝という言葉が出てきますが、梅原猛氏の文章に興味深いものがあったので紹介させていただきます。
「（前略）足利尊氏が賊臣になったのは意外に新しい。水戸黄門として知られる徳川光圀によって編纂が始められた『大日本史』が、南朝を正しい王朝として北朝を偽りの王朝として以来のことである。いまの皇室は明らかに北朝系統であり、その祖先が偽りの王朝の天皇であったなどということは、皇室にも失礼なことだと思われるが、愛国者と称する人はそんなことを一向構おうとしなかった。二つの王朝が対立するとき、南の王朝を正統とするのは、北に本拠を構える異民族の王朝に対して、南の漢民族である宋の王朝を正統化する朱子学の思想によるが、そのような中国の特殊な歴史的事情に応じてできた朱子学の思想を日本に当てはめ、勝手に南朝を正しい王朝、北朝を偽りの王朝にしてしまったのである。このゆがんだ歴史観のおかげで楠木正成は最大の忠臣になり、足利尊氏は最大の賊臣ということになってしまった。（後略）」
梅原猛 「等持院と足利尊氏」 より
